局所麻酔薬の極量について
痛みを無くすことの出来る【局所麻酔薬】は、手術には欠かせない薬剤です。
ただし、1回の手術で使用できる局所麻酔薬の量は限られており、その上限を【極量】と言います。
極量を超えて局所麻酔を注射すると、血圧や脈拍などのバイタルサインが乱れる【局所麻酔中毒】が起きる可能性があるため注意が必要です。
局所麻酔剤に含まれる【エピネフリン含有リドカイン】の上限(極量)は7mg/kgと言われ、かつ総量が500mgを超えないことになっています。
例えば、体重50kgの人に局所麻酔を注射する場合、エピネフリン含有リドカイン350mgが極量になりますので、0.5%キシロカインなら70cc、1%キシロカインなら35ccまで、1回の手術で使用可能ということです。
1mLあたりのリドカイン酸塩 | |
---|---|
0.5%キシロカイン | 5mg |
1%キシロカイン | 10mg |
体重 | 0.5%キシロカイン 極量 | 1%キシロカイン 極量 |
---|---|---|
40kg (280mg) | 56cc | 28cc |
50kg (350mg) | 70cc | 35cc |
60kg (420mg) | 84cc | 42cc |
70kg (490mg) | 98cc | 49cc |
しかし、実際の手術(特に脂肪吸引)では、上記の極量では局所麻酔剤が足りないことがあります。
そのような場合には、生理食塩水を用いて、局所麻酔薬を0.05〜0.1%に薄める(=希釈する)ことによって、リドカインの極量を35m/kg(希釈しない場合の5倍)まで上げることができます。
局所麻酔剤を生理食塩水で希釈した溶液のことを【tumescent (チュメセント)溶液】と言います。
皮下脂肪層に、予定脂肪吸引量と同量のtumescent溶液を打ち込む場合を【wet法】、2倍量のtumescent溶液を打ち込む場合を【super wet法】、4倍量のtumescent溶液を打ち込む場合を【tumescent法】と呼んで区別することもありますが、実際の現場ではまとめてwet法と呼ぶことが多いです。(これと比較して、少量のtumescentで手術する場合をdry法と呼びます。)
脂肪吸引手術は、dry法よりもwet法でおこなう方が安全性やクオリティが高くなります。
なぜならば、大量のtumescent溶液を打ち込むことによって、血管や神経などの大切な組織を皮下脂肪から剥離して(water dissection technique)保護する効果があるからです。
また、tumescent 溶液によって皮下脂肪層が膨らんで、安全に操作できるゾーンが広がるため、脂肪吸引に伴う凸凹や引きつれなどが出づらくなります。
逆に、お顔の脂肪吸引手術をする際に、tumescent を大量に入れるデメリットは、
①tumescent を注入した分、手術後24時間以内は、手術部位がパンプアップしてパンパンに腫れて見えること。(手術前にその旨をしっかりお客様に伝えておかないと、手術後に驚かれてしまうことでしょう。)
②tumescent に含まれるエピネフリンによって血管が収縮するため、手術後24時間以内は、皮膚が白く見えること。(これにより術中・術後の出血を最小限に抑えられます。)
③tumescentに含まれる局所麻酔薬によって、手術後24時間以内は、表情筋の動きがブロックされて、一過性の顔面神経麻痺になる可能性があること。
などが挙げられますが、いずれも手術後24時間ほどかけて tumescent が吸収されていくとともに改善しますので、しっかりお客様にお伝えしておけば問題ないでしょう。
むしろ、術後2〜3日目の経過でみると、上記②による止血効果が加わることによって、wet法の方が内出血(青タン)も少なくなります。
局所麻酔薬は痛い!?
さて、tumescent 溶液には局所麻酔薬と生理食塩水の他に、炭酸水素ナトリウム(メイロン)も混ぜてあります。
なぜメイロンも入れるかというと、局所麻酔薬は「痛いから」です。
痛みを取り除いてくれる局所麻酔薬が「痛い」とはどういうことでしょうか!?
局所麻酔薬はpH(水素イオン濃度)が酸性のため、皮下組織に打ち込む際に、注入時痛が発生するのです。
例えば、ワクチンを注射した時に、針をチクっと刺す瞬間よりも、その後に薬剤を打ち込むときの方が痛みを感じましたよね?
局所麻酔薬のようにpHが酸性だと、注入時痛が強くなりますので、tumescent にメイロンを混ぜてpHを中性に近づけます。
脂肪吸引手術をおこなう際には、静脈麻酔を用いることが殆どです。静脈麻酔とは、点滴から持続的に鎮静剤と鎮痛剤を投与することによって、手術時の痛みや緊張を和らげる麻酔法です。
静脈麻酔を行なっていても、痛み刺激が強いと体動が出ます。体動が強く、手術の続行が難しい場合には鎮痛剤や鎮静剤を増量しますが、その際に呼吸抑制が発生する可能性があるので注意が必要です。
Tumescent 溶液にメイロンも混ぜて、注入時の痛みを和らげることによって、鎮痛剤や鎮静剤を増量しなくても済むため、安全性が高まるという段取りです。
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銀座フェイスクリニック院長の奥田です😀
以上、脂肪吸引を行う際の基本である【tumescent 溶液】について説明いたしました。
手術の安全やクオリティを高めるために、特殊な裏技はありません。
何か特殊なことをするのではなく、基本に忠実に、1つ1つの作業を懇切丁寧におこなうことが大切です。
【A】あたりまえのことを
【B】ばかみたいに
【C】ちゃんとやる
凡事徹底あるのみです。
お顔の脂肪吸引について、その他詳しくは下記のページにまとめてありますので、ご覧ください↓
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